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【四日市博】《金唐革》
 現在、秋に開催する四日市市立博物館の30周年記念「立原位貫」展の準備の真最中である。四日市ゆかりの木版画家で、江戸浮世絵の復刻作品を究めて、粋で個性的なオリジナル作品に至る「想像力から創造力へ」の作家の生涯を描き出した展示にしようと必死だ。その概要については先般のブログに紹介させていただいた。

金唐革(向左)
金唐革(向左)

金唐革(向右)
金唐革(向右)

 その中で、《金唐革・人形手(きんからかわ・にんぎょうで)》(1983年)という作品がある。これは早稲田大学教授で、歌舞伎をはじめとする古典芸能研究の第一人者、郡司正勝氏の古希記念出版の『かぶき夢幻』という本の表紙のために作られた作品である。江戸時代の図案集『装剣奇賞』の中にある絵に、郡司氏の「歌川国芳風の色彩をアレンジした作品を作って欲しい」という注文に応えたものだ。キューピッドが出てくるエキゾチックな絵を、立原は洋の東西が交差したようなオリエンタルな雰囲気の作品に仕上げ、現代にも通用する実に魅力的な作品になっている。

 そもそも「金唐革」とは欧米の皮革工芸品のことであり、唐草や花鳥などの文様や型を使って浮き上がらせ彩色したもので、宮殿や市庁舎などの室内装飾品であった。日本へは江戸前期に伝わり、異国情緒で人気を博すも、鎖国で入手困難なため、和紙を素材とした代用品「金唐革紙(擬革紙)」が開発され、近代まで続いた。そして、その開発された地こそ伊勢地域であるという。現代でも復刻の動きがあるらしく、もっと注目してもよい技術・美術なのではないだろうか。

 ちなみに、この作品は復刻作品に立原流のアレンジを加えて、新たな作品へと昇華させる、まさに「想像力」から「創造力」へとつなげて行く、オリジナル作品への助走ともなった。

(吉田俊英 よしだ・としひで/四日市市立博物館)
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[2023/04/02 22:00] | 未分類 | page top
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