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古文書からの激励
石水博物館は木綿を商った伊勢商人・川喜田家伝来の資料、そして同家十六代当主で陶芸家として知られる川喜田半泥子の作品を収蔵・展示している。

この春、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、当館も4月13日より休館に至った。当面の予定が立てられない中、これを機に、日ごろ着手しづらい所蔵品の調査・研究を進める館が出てきている。桑名市博物館では「普段は人手不足でなかなか手を付けられない調査研究に時間を割くこととし、約二年前に町田家から預かった大量の資料を重点的に分析する中での新発見」があったという(『中日新聞』三重版2020年4月15日。URL参照)。

このニュースは早くも反響を呼び、各館もこれに続こうと呼びかける声も出てきている。

いうまでもなく、所蔵品の調査・研究は、博物館の重要な使命の一つである。当館に収蔵される資料のなかでも大きなウエイトを占めるのが、数万点におよぶ川喜田家の家伝文書、そして川喜田家の歴代当主が収集した約2万冊にも及ぶ古書典籍類である。しかし、それらの量は膨大であり、これまで十分に調査できなかった資料も多い。そこで、当館でもこの機会に所蔵資料の見直しを進めることになった。今回は、最近調査した川喜田家文書の中から、とりわけ興味深い書簡資料を紹介する。

江戸時代後期、質量ともに優れた蔵書を誇る川喜田家のもとには多くの好学の士から書籍の貸し出しや閲覧の依頼が届いた。なかでも、頻繁に書籍の閲覧・借用を申し出ているのが伊勢外宮の御師・足代弘訓(1784~1856)である。足代弘訓は伊勢で最も有力な国学者の一人として多くの門人を抱え、神道・国史・語学などに関する著述を多く残した。また、経世の志も深く、大坂の大塩平八郎との交流はよく知られるところである。
足代の手紙は総じて長大で、世評や学問への思いなど自身の感情を多く吐露しているが、次に翻刻を掲げる書簡はそうした川喜田家宛足代書簡の真骨頂を最もよく伝えるものの一つである。

足代書簡掲載用 - コピー

小子なとハもとより貧家へ生れ候上、親類の大借を引受、ひしと困究仕学問仕候。力も無之候へとも、人と生れ候上ハ何とそそれ程の事なし置たく、救荒の事にも、学問の事にもなるへき程ハ精力を尽し申候。夫故平日事足不申、茶香風流の藝なとも志なきにあらす候へとも、その餘力なく、閉戸同様に仕居申候。貴家なとハ冨家に御生れ被成、御書物ハ沢山也。御不自由ハなき御身也。(中略)しかし冨豪の御方ハ気の屈し候事ハ御きらひにて、多分力学ハ出来かたきものニ候へハ、書物を好学の人ニひろく御借し被成、学者を御取立被成候も、又大なる御徳ニ御座候。貧学の小生にても、仕にくき處を勉強して学問仕候。貴家なとにおいてハ学問仕候ハ被成やすき事ニ御座候。何とそ後世の益になり候著述なとをなしおかれ候やう奉祈事ニ御座候。草々頓首
       足代権大夫
  四月七日
 河喜多久大夫様

「私(足代)は貧しいながらも志をもって一生懸命勉強している。金持ちのあなた(川喜田)が勉強することなんて簡単なことですね」と、一見すると優れた蔵書を擁する川喜田家への嫉妬、やっかみのような内容だが、川喜田家当主と足代の極めて親密な交流を前提に考えれば、そうとも言えない。つまり、優れた資料を持つ家の社会的責任を説いているのである。資料を抱える者はそれらを広く公開し、学問の発展に寄与せよ、と。

川喜田家伝来の資料を継承した当館には、未だ知られざる多くの重要な歴史資料、古書典籍、美術工芸品が所蔵されている。展示活動を通して、これらの資料を広くご覧いただくことが当館の重要な使命であると考える。

「もっと勉強しろ、もっと頑張れ、やろうと思えばいくらでも勉強できるじゃないか、よい展示をして世に尽くせ」と、書簡を翻刻しながら叱咤激励されている心地がした。この期間に改めて所蔵品の調査研究を進め、新型コロナウイルス流行が収束した後、自信をもって、皆さまにご紹介できる展覧会を企画・準備していきたい。

(公益財団法人石水博物館 学芸員 桐田貴史)
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[2020/04/19 22:00] | 未分類 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
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