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ビジツカンの道具 番外編「学芸員の服装を考える」(後編)
③カジュアル系
Tシャツにジーンズ、スニーカーといった服装で、一見その辺にいる兄(アン)ちゃんのような感じです。Tシャツにはシンプルでアーテスチックな柄が入っている場合が多いように思われますが、きっとどこかのセレークトショップで買われたのでしょう。現代美術系の方に多いようで、名刺にも「学芸員」ではなく「キュウレタァ」と書いてあることがあります。横文字の職名に憧れる身としては誠に妬ましい限りです。お酒の席において、私はよく個人的経験と偏見に基づく極私的エロス奇譚を展開する癖があるのですが、カジュアル系の方はそのテの話があまりお得意ではない場合があり、結果居酒屋で数分間の冷ややかな無言劇が繰り広げられたこともございました。余談ではありますが、インドへ旅行した私の友人が、「歓迎!スタール氏」と日本語で書いてあるTシャツを買ってきたことがあります。しかも文字はプリントではなく、わざわざ染め抜いてあるという手の込みよう。洗濯すると染料がしみだすとのことでしたが、スタール氏が何者なのかは未だに謎です。

④アヴァンギャルド系
 「アヴァンギャルド」はフランス語で”avant-garde”。もともとは「前衛部隊」を意味する軍事用語で、美術の分野では権威化された美の有り様に抵抗する「前衛芸術」または「前衛美術」を意味すると、かの有名なウィキペディア先生にご教示頂きました。この業界にも時折突飛で前衛的な衣服を身に纏われる方がおられます。オシャレと言ってしまえばそれまでなのですが、そのオシャレさ加減はドン◯西に匹敵する程のレベルに達しておられます。明らかにカタギではないオーラを発するこの系統の方々は、見るからに美術館の学芸員。いくつかの例をご紹介すると、大きな水玉模様のヒラヒラしたシャツ、G.Iカットに厚手のパーカー、坊主頭に凝った形の丸メガネと不思議な構造の衣服などなど。当館のM上課長などはかつてモヒカン頭の学芸員にもお会いしたことがあるそうです。ご専門は現代美術かと思いきや、仏教美術やルネサンス美術だったりするので細心の注意が必要です。しかし見た目とは裏腹に(失礼!)、とてもフランクないい人だったり、職務に確固たるポリシーと熱意をお持ちの方が多かったりもして、お酒などをご一緒すると大層面白いお話を伺うことができます。

⑤作業着系
 美術館関係ではやや例外的ですが、近年の当館に見られる傾向です。「ビジツカンのガッゲーイン」というと、さぞかしキレーでユーガな仕事なのだろうと想像されるかもしれません。しかしてその実態は展示や撤収といった肉体労働に満ち溢れ、ホコリまみれの美術品や資料を取り扱うこともあるため、結構に汚れやすい仕事だったりします。我々が学芸員として生きてゆく上では、様々なヨゴレに対して身と心を鎧う必要があるのは言うまでもないでしょう。そんな時に便利なのが作業着なのです。といっても、役所内で作業着が支給されるのは土木部や農林水産部、近いところでも埋蔵文化財系などの部署のみ。我々美術館学芸員にとって、作業着は身近そうでやや縁遠い、憧れの存在でした。
しかし数年前のある日出勤すると、見慣れない作業着に身を包んだ、Y田学芸員があの彫りの深い顔に満面の笑みを浮かべて事務室に立っているではありませんか。「それどしたの?」「なんかあっこでみっけた」「まだある?」「うんまだある」といった小学校2年生のようなやりとりと発掘作業の結果、館の奥から全5着の作業着が見つかったのです。
この作業着、バブル期のスキーウェアを彷彿とさせる鮮やかな緑色で、胸には所在地や運営主体を秘匿するかのように、ただ「美術館」とだけ銀色の明朝体で刺繍されています。昔サンプルか何かとして頂いたものなのでしょうけれども、端的に申し上げますと格好悪く、「曲がりなりにもアート系」といった我々の瑣末な自意識なぞ木っ端微塵に打ち砕いてくれる作業着です。しかし慣れとは恐ろしいもので、今では私を含む当館の若手(平均年齢35歳)学芸員は、皆この作業着を誇らしげに着用し、日々職務に専念いたしております。
 発見後間もないある日、当館にE青文庫からMさんがいつものフォーマルなスーツ姿でご来館あそばされました。するとお迎えするのは揃いの作業着を羽織った学芸員たち。Mさんからはやや困惑した表情と共に「…お色が眼に突き刺さるかのようです。」と、極めてご丁寧な賛辞を賜りました。
あの日から数年が経過し、眼に突き刺さるかのような鮮やかだったグリーンも、今では高度経済成長期の河川の色を思わせるやや渋い緑色に落ち着きつつあります。時の経つのは早いものですね。そういえば当館も来年で開館40周年を迎えるそうですよ。
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初出:『熊本県立美術館だより View』155号 2015年12月
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館内作業の際は大体作業着ですよねー。しかし「極私的エロス奇譚」って気になりますね(聞きたくはなし)
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[2020/02/18 23:00] | 未分類 | page top
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