FC2ブログ
ビジツカンの道具 第6回「薄葉紙」─よくわからないけど非常に使える道具です─
第6回目を迎えるこのコラム、前回の内容に関して、とうとうクレームを頂きました。クレームの主、いわゆるクレーマーは、なんとかつて当館の総務課職員であらせられたT田様。内容としては、「“熊モン”は正しくは“くまモン”ではないか!この非県民めが!」とのこと。お便りは以下のように続きます。「いつも、くまの世話をしている身としては、これはどうしてもゆっとかないとと思いまして」(原文ママ)。T田様の現所属は県外の熊本県事務所だと思っていたのですが、どうやら動物関係の部署に勤務されているようです。前回あのように表記したのは決して誤字ではなく、匿名性のあるニュアンスをもたせたかったからなのですが。誤解を与えてしまった皆様にこの場を借りてお詫び申し上げます。

さて、今回のテーマは「薄葉紙」です。この道具、その名の通りペラペラとしたごく薄い紙です。紙の種類で言うと「雁皮紙」にあたるのだとか。だったら「ガンピー」などといったポケ○ン風のフレンドリーな愛称があってもいいじゃないか(みつを)とも思いますが、現場ではもっぱら「ウス!」という侠気あふれる通称で呼ばれております。ちなみにロール状に巻いてあるものは「マキウス!」と、裁断してあるものは「バラウス!」といいます。カタカナで書くと古代ローマ人の名前のようでもありますね。

我々が特別展や企画展を開催する場合、他館から作品をお借りすることがあります。お借りした作品は梱包した上で、専用のトラックで輸送するのですが、その間に傷が入ったりしたらもう大変。石抱き、水責め、ゴムパッチンなどの厳罰(嘘)が待っています。厳重かつ作品に害のない梱包をすることは、ゴムパッチンから我々の身(主に口周辺)を守る重要な使命といえるでしょう。もっとも、作業自体はN通さんとかYマトさんなどの美術部門を有する輸送業者の方が行いますので、我々は責任者として作品の状態に応じた指示を出す役割を担います。屈強な作業員さんやご所蔵者の顔色を窺いながら、おずおずと。

薄葉紙が活躍するのは、この梱包作業の時です。例えば額装された油彩画を梱包する場合、茶色のハトロン紙で全体を包んだ後、サイズにあわせて作成した段ボール製の箱に収めるというのがよくあるパターン。しかし、ハトロン紙はやや硬いので、特に状態のよくないモノの場合は額や絵に傷をつけてしまう恐れがあります。その時には、ハトロンの前に薄くしなやかな薄葉紙で包んでおけば、ゴムパッチンを回避できる可能性が高くなるというわけです。他にも、薄葉紙は大きく丸めればクッションより柔らかな緩衝材になりますし、裂いて細く折りたためば紐代わりにもなります。なんと使える道具なのでしょう!

それだけに、借用・梱包の現場ではしばしば、こんなセリフが聞かれることがあります。

「…とりあえず、ウス、巻いときましょう」。

冒頭に若干のタメがあって、文節ごとにためらいがちな句点があるところがミソです。

サンの部分が外れそうな屏風を梱包する際にも

「…とりあえず、ウス、巻いときましょう」。

見るからに危険そうな工芸品を梱包する際にも

「…とりあえず、ウス、巻いときましょう」。

壊れやすいもの・壊れかけのものには

「…とりあえず、ウス、巻いときましょう」。

それってホントに効果的なのかしら、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。以前、とある所から小さな桐の箱に入ったガラス湿板写真をお借りしたことがありました。この写真、桐の箱が分解しかかっており、輸送中の振動で箱とガラスが干渉して割れる恐れがあるため、梱包方法に頭を悩ませておりましたら、N通さんから出ましたあのセリフ。

「…とりあえず、ウス、入れときましょう」。


いやいや今回はさすがに…とも思いましたが他に方法がありません。相手先の了承を得た上で、桐箱とガラス写真との隙間に折りたたんだウスを入れ、祈るような気持でトラックを送り出したのですが、帰って開梱してみれば、なんと全くの無傷。

ウス、凄くないですか?

 ところで、私はここ数年でひどい頭痛持ちになってしまいまして、2年に1度は鬼のような痛みが断続的にやってくる症状に悩まされております。数ヶ月前、ひとり収蔵庫で作業をしておりますと、やって来ました頭痛様。孤独に唸っておりますと、作業台には1枚のバラウスが。その刹那、壊れかけの脳裏に例のセリフがこだまします。「…とりあえず、ウス、巻いときましょう」。私はバラウスを手に取り、そっと頭に巻いてみたのです。効果ですか?あるわけないじゃないですか。

初出:『熊本県立美術館だより View』152号 2015年3月
*****
いやーこのセリフは業界中で言いまくってると思うんですけど、リンダさんレベルにまで言えるようにはなかなか修業が必要だと思います。キャリア10年くらいから使えるセリフじゃないかなあ、多分。
スポンサーサイト



[2020/02/04 23:00] | 未分類 | page top
| ホーム |