
美術館での
内部合意も得ずに始まってしまったこのコラム。第2回は「カメラ」です。我々学芸員にとって、カメラは欠かすことのできない道具です。その作品がどんな図様で、どんな形をしていて、どんな場所にあって、どんなキズがあるのか。
我々は「調査」という作業の中でそういったことを記録していきますが、文章で何やかんやと書くよりは、写真で撮影したほうがわかりやすいですし、合理的です。時折、学芸員実習などで携帯電話のカメラで作品を
カジュアルに撮影しようとする学生さんがおられますが、これはアウト。
この業界から静かに抹殺されてしまう恐れもありますので、学生さんに対してはなるだけ一眼レフなどのちゃんとしたカメラを使用するよう、
映画「フルメタル・ジャケット」のハートマン軍曹の如くフレンドリーに指導するようにしております。
ただ困るのはカメラの重さ。遠方への出張などに大きく重い一眼レフを持っていくのはやはり骨が折れます。平日の昼間、スーツ姿に重たそうな出張カバンと大きなカメラバッグを持った方が美術館にいるとすれば、その人は
学芸員である可能性が極めて高いです。もっとも、近年は小型でしかも接写ができる(これが重要です)コンパクトデジカメも出ておりますので、割と楽になりつつあるのですが。全国の学芸員さんたちは、日々
「K格.com」などのウェブサイトを閲覧しながら、コンパクトで、接写ができて、写りがよく、
買っても奥様に叱られない程度に安いカメラを調査していることでしょう。
以上のような理由のせいかどうかは知りませんが、この業界にはカメラ好きの方が多くいらっしゃるように思います。かく言う私も、実はカメラが好きでして、それで
殴れば確実に流血沙汰となるであろう重く古いフィルムカメラで、「動くな!」と命じながら子供の写真を撮影するものですから、
妻からは嫌な顔をされています。
子供が同じ顔をする日も、そう遠くは無いのかもしれません。
当館と関係の深いE青文庫の学芸員、Mさんもカメラ好きの一人。なんと十代の頃にお小遣いやお年玉を貯めて高級一眼レフを購入されたという筋金入りのマニアです。調査の後でお酒を飲みながらカメラの話になり、私が
間違った知識を得意気に話しておりますと、「それは私の記憶とは異なるようです。その頃M社ではまだそのカメラは発表されてはおりませんでした。
私の記憶が正しければ、おっしゃっているのは〇〇のことかと推察されます…。」と、丁寧な言葉でやんわりと否定してくださいます。
有難いことです。
そんなMさんも私も、調査の際に使用しているのはR社のコンパクトデジカメ。1センチまでの接写が出来て、しかもコンパクトなので非常に重宝しているのですが、
Mさんのものは高級機、私のはその廉価版です。E青文庫での調査中、買ったばかりの廉価版の操作に戸惑っておりますと、そこは高級機をお持ちのMさん。「…少々貸していただいてもよろしいでしょうか。私の方で設定を変えさせて差し上げます。」と、これまた丁寧なお申し出を頂きました。私は
そんなMさんが大好きです。
初出:『熊本県立美術館だより View』146号 2013年9月
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【担当編集のあとがき】
カメラは調査必携ですしやっぱりこだわりの道具ですよね。最近はスマホでパシャリ、という学芸員も増えたように思います。
便利だし、クラウドにあげちゃえばデータもどこでも見れるし、ズームも思いのままだし…。
それでも一眼レフのカメラの魅力も捨てがたいです。なお当館では6×9および4×5のフィルムカメラ君が未だ現役です…(^-^;)
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