杉本竜『これから学芸員をめざす人のために』創元社、2023、税込1,870円
![]() ―もともとの出版のきっかけを教えてください 杉本竜(以下S)「20年前、学芸員になったばかりの自分へ贈るマニュアル本、という位置づけです。その思いがきっかけですね。学芸員になったばかりのときって、本当に『何をしていいのか、悪いのか』がまったくわからないんです。ですので、自分が欲しくて読みたかったマニュアル本を、というのがもともとのスタートです」 ―本書の見どころはどういったところでしょうか S「学芸員をめざす人だけじゃなく、なったばっかりの方にも参考になるのかと思います。また、自分のところが正しいとかそういうのではなくて、ウチはこういうやり方をやってますが、他所様はどうなんでしょう…という色々教えていただきたい気持ちもあります。また、私が20年やってきたなかで、さまざまな失敗をしてきたんですが、そうした事例と対策も記していますので、私のようにならないように、という思いがやはりありますので」 ―エピソードなどは、実際に起こった話なんでしょうか? S「そうですね、事実関係を記すとやはり現役の方もいらっしゃいますので、複数事例を交えて書いていますが、事例によっては「これ私?」と思われることもあるかも知れませんね(笑)。今回本書で記しているエピソードは私が実際に体験や見聞きしたことです。編集者さんからもやはり『具体的なエピソードは読者にわかりやすいと思います』とおっしゃっていただいたので、あまり堅苦しくなく、リーダブルなかたちで書いてみました」 ―講演会のあたりはかなり具体的でした S「あそこはもう『勇気を出して初めての講演会』の完全ノウハウ本ですよね。実際、あそこまで念入りにやらないといけないことはないんで、あくまでケースバイケースです。また、展示手法などは割とノウハウの解説書があるのですが、講演会準備の裏側というのはあまり例がないと思いますので、実際のスケジュールにあわせて書いてみました。平成時代はこういう仕事だったんだ、という記録にもなりますしね」 ―20年くらい前まではやはり厳しい先生方もいらっしゃったとか S「古い話ですから記憶も曖昧ですけど、全般的にやはり厳しかったですね。また世代的にもそういう方が多くいらっしゃいましたし、様々にお叱りをいただきました。当時は私も未熟なので、怒られるのもしょうがないんですけどもね。ただ振り返ると今の自分があそこまで若手の方に厳しく叱れるかどうかはわからないですね。やはり叱るのもエネルギーが必要ですし、最終的にはその人のためになりますから。まぁ今の時代それはもう通用しないでしょうし、20年前でも丁寧に教えていただける方はいらっしゃいましたしね。本文で紹介した九陶の学芸課長さんや、和歌山市博の館長さんなんかは本当に素人まるだしの私に対し懇切に教えていただきました。現場の緊張感ある雰囲気のところでそういうのってやはり忘れないもんだなあと改めて思います。和歌山の館長さんはたまたま関西大学の先輩でしたので、『後輩だからしゃあないな』みたいな感じで面倒みていただきました。そういうつながりはやはり当時はありましたね」 ―最後にこれは言っておきたいということはありますか? S「2つあります。ひとつは、本書は実践風に書いていますけど、やはり現場一辺倒では視野が狭くなりがちなんですね。本書帯では『大学では授けてくれない』とありますけど、まぁこれはプロレスでいうところの『ぶっつぶしてやるぞ、エーオラー!』みたいないわゆる”煽り”です。やはり理論があって実践、実践あっての理論ですので、しっかりと大学の授業も学んでおいてほしいと思います。紙幅の都合で掲載できなかったんですけど栗田秀法先生編集の『現代博物館学入門』(2019)は参考になると思います。もうひとつは、北方謙三先生になぞらえますと「ミュージアムへ行け!」。これに尽きますね。各地に面白いミュージアムがあります。三重県にもいっぱいありますから、ぜひお越しいただきたいなと思います」 ―本日はありがとうございました。 S「ありがとうございました。たくさん小ネタも仕込んでいますので、興味ある方はそちらも楽しんでもられば嬉しいです」 インタビュワー;UWF.interviewer(YOU.INTER.) スポンサーサイト
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本居宣長記念館の西山です。
お久しぶりなので、本居宣長記念館の基本情報をふくめたご案内を少し。 ![]() ≪記念館外観 リニューアル後≫ 当館は、国指定史跡・松坂城跡の中にある博物館で、江戸時代中期の古典研究者・本居宣長関係資料や、関係史蹟の保存公開をしています。 収蔵品数は、約1万6000点。 宣長の自画像をはじめ、『日記』、『古事記伝』の自筆稿本など、1949点が国重要文化財に指定されている。 昭和45年(1970)の開館ですが、平成29年(2017)のリニューアルで、とってもキレイになった。 ![]() 写真 ≪本居宣長記念館 1階ロビー≫ 常設展のない博物館で、年4回の企画展で展示している。 だから、年中決まったものが見られるわけではない。 よく言えば、毎回違ったものを見学することが出来る。 そんな本居宣長記念館では、現在、夏の企画展「宣長の目―『玉勝間』の世界」(9月3日まで)を開催中だ。 ![]() 写真 ≪R5夏企画展チラシ-表≫ 宣長の随筆『玉勝間』(たまがつま)を主役とした展示であるが、その中で、普段あまり出品しない資料を展示した。 宣長自筆の『玉勝間』の下書きである。 『玉勝間』は、宣長64歳のときに書き始められたと考えられる。他の著作のように清書本を作成しているわけではなく、下書きの形状も定まらない。内容も、一部しか現存しない。 ![]() 写真 ≪『玉勝間』下書き 集合≫ なぜ、『玉勝間』の下書きをあまり展示しないのか。 それは、見てもよく分からないから。 ![]() 写真 ≪『玉勝間』下書き≫ これを見れば、頷いて頂けるだろうか。 上写真は、宣長の「山桜が好きだ」という想いを記した「花のさだめ」という文章だ。 修正に修正を重ねて文を練り、しかも紙は、自身の別著『玉あられ』校正刷りの裏面をリサイクル。裏の文字も透けてしまい、何がなにやら分からない。 60代に入ってから、宣長はますます多忙となった。 本業医者の仕事に、門人指導、諸国からやって来る訪問者の対応に、『古事記伝』執筆、刊行事業……。 そんな中で、どうやら『玉勝間』は下書きから清書をせずに印刷作業へ移ったようで、ごちゃごちゃした下書きが、そんな宣長の状況を物語るようだ。 普段は、読めないから展示しない。 しかし今回は、読めないような原稿から、当時の宣長に思いを馳せていただくのが目的である。 「この子は、全然展示出来ないな」 と、いつも思っていたけれど、久々に日の目を見ることが出来た。 9月に展示が終わり、撤収されてしまえば、次にお目見えするのは一体いつになるのやら。 この夏は、ぜひ、涼みがてら本居宣長記念館へお越し下さい。 ------------------------------------ 夏の企画展「宣長の目―『玉勝間』の世界」 2023年6月6日(火)~9月3日(日) ◯展示説明会 7月15日(土)、8月19日(土) いずれも11:00から(約1時間) ※申込不要。当日入館券をご購入の上、展示室へ。 ≫ 本居宣長記念館公式ホームページ https://norinagakinenkan.com/ ------------------------------------ 西山杏奈(にしやま・あんな/本居宣長記念館) |
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