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【三重県博】1Bqと100,000マイクロBqどちらが大きい?
現在、三重県総合博物館(MieMu)では秋の企画展「三重の円空」を開催中ですが、11月8日(火)に展示替えを行いました。これにより、片田地区と立神地区の大般若経に描かれた円空のすべての絵画がご覧いただけることになります。是非とも再度来館いただき、円空の絵画全点をご覧いただければと思います。

さて、タイトルの件ですが、Bq(ベクレル)とは、放出される放射線の強さを表す単位で、福島第一原子力発電所の事故以降、食品の放射性セシウムの量を表す値としてマスコミ報道などでよく用いられた単位です。平成24年4月1日以降、基準値として日本では飲料水なら10Bq/kg以下、一般食料品なら100Bq/kg以下と定められています。100,000マイクロBq=0.1Bqなので、1Bqの方が、100,0000マイクロBqより10倍大きいことになりますが、受ける印象としては100,000マイクロBqの方が大きいと思うのではないでしょうか。同様に、日々の報道で県内のコロナ重症者数1人、重傷者病床使用率2%とあった場合、2%に引きずられて病床数に余裕があるように思えますが、県全体でわずか50床しか用意されていないことにはなかなか気づきにくいものです。このように数値表現は単位のとり方や表し方で印象が大きく変わってしまいます。

コロナ禍の影響もあって最近では、バーチャル博物館のように展示品の写真等をネット上に掲載しているケースがありますが、展示品の大きさや広さを伝えるには単に数値だけでなく身近な物との対比で示すのも工夫の一つと思います。たとえば、路線バスで長さ約10 m、人の歩幅が60~70cm程度、A4用紙が21cm×29.7cm(A版は半分ずつに折りたたんでいくと常に縦横比が1:√2で一定です。A0版の面積は1平方メートルです)、なのでこれらを対比に使うと大きさのイメージがつきやすいのではないでしょうか。また、日本家屋では伝統的に尺貫法が使われていたので1間=約1.8mが基準となっています。畳1枚が0.9×1.8m、鴨居の高さや窓2枚分の長さが1間、1坪が1間×1間、これなども大きさの目安として使えると思います。ただ、最近ではフローリングの部屋などが多くなって畳のサイズは若い人はピンとこないかもしれませんが。重さについては、1リットルの牛乳パックやペットボトル1本が約1kg、1円玉1g、50円玉4g、500円玉7gなので、これらを目安にしてはいかがでしょうか。いずれにせよ、展示品についてはバーチャルな空間では情報が十分に伝わらないので、来館して実物をまじかに見て、大きさなどを実感してもらうのが一番良いと思います。

(守屋和幸 もりや・かずゆき/三重県総合博物館)
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[2022/11/27 22:00] | 未分類 | page top
【亀山歴博】陶器になった古文書
信楽の狸、これは陶器の置物。家の庭や店先でよく見ますね。じっくり見てみましょう。
(画像01 )
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「この狸は左」、「この狸も左」、「この狸も左」、「おっ、この狸は右」
(画像02~05)
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 さて、何が左で何が右だというのでしょうか。酒好きな信楽の狸なので、殆どの方は、どっちの手に通い徳利を持ってるかと思ったかもしれませんね。

 でもここで注目したいのは、通い徳利の方ではなく、実は左手や右手に持っている帳面なのです。丁数が沢山あることをヒダで表し、紙の束であることが粘土で見事に表現されているので、一目で分厚い帳面だと解ります。
(画像06)

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 この帳面、古文書調査で「原題(補足題)」の項目に記入するとしたら何としましょうか。三匹が持っているのは「御通(通い帳)」、一匹が持っているのは「通(通い帳)」とすることになるでしょうね。
(画像07)(画像08)

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 そして、ここからが、古文書調査のワクワクするところです。調査項目には「形態」というものがあります。これは古文書の形態を記録する項目なのですが、通い帳というからには冊子です。

つまり冊子形態。そして、古文書には、いくつもの冊子形態があります。昔学校で400字詰原稿用紙に作文を書いて、最後に文集として綴じた思い出のある方は沢山いるかと思います。 

横長(よこなが)の原稿用紙を縦半分に折って束ねて紐で綴じたり、ホッチギスで綴じたり。あれは古文書の形態でいうと「竪帳(たてちょう)」といいます。これは代表的な冊子形態の一つですね。

もう一つは、今度は横長の紙を横半分に折り上げて(これだけなら形態は折紙(おりがみ)といいます。保証を表す「折紙付き」の語源)、それを束ねて右側を綴じたものがあります。
この形態を「横帳(よこちょう)」といいます。よく「大福帳」として用いられていたものですね。もう一つは横長の折紙を重ねて、縦半分に折って右側を綴じたもの。これは横帳の半分なので横半帳(よこはんちょう)といいます。

 竪帳、横帳、横半帳という形態は、冊子形態の代表的なものです。江戸時代では庶民が日常に用いており、昭和までは確実に用いられていたメジャーな冊子形態なのです。

 翻って、もう一度信楽の狸に注目しましょう。四匹が持つ通い帳の形態は、一体どれでしょうか。竪帳でないのは確かです。何故かというと長辺を綴じていないからです。そうすると横帳か横半帳かということになります。

これは、私の感ですが、長辺の長さが短辺の長さに比べてそんなに長くないので、横半帳ではないかとみています。もし横帳なら長辺が短辺より可成り長く表現される筈と踏んでいるからです。

あと横帳だと横半帳より長いので携行すると歩きにくいかもしれません。だから横半帳だと思うのです。
(画像09 横帳と横半帳)

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 最後に、古文書調査では、綴じ穴の数や綴じ方なんかも記録することがあるんです。特に竪帳に多いのが四ッ目綴じとか、大和綴じとか。狸が持つ横半帳はどれも二ッ目綴じということが分かりますね。漢字の「八」に見えるけれど綴じ紐ですね。
(画像10)

信楽の狸の本題は酒好きを象徴する通い徳利。亀山市歴史博物館では、第39回企画展「通い徳利のひとりごと」を開催中。亀山市域にかつてあった酒造場、醤油醸造場の歴史と沢山の通い徳利を展示しています。勿論信楽の狸も。

(小林秀樹 こばやし・ひでき/亀山市歴史博物館)
[2022/11/20 22:00] | 未分類 | page top
【四日市博】「立原位貫」 (1)
 四日市市立博物館は現在、来年の2月初めまで空調のリニューアル工事のため休館中です。それが終了した4月以降の新年度には開館30周年記念の年を迎えます。従って職員の皆さんは、工事の騒音をバックミュージック(?)に資料の移動・保護や、事務所スペースの移動・片づけ、さらには30周年記念の展覧会、講演会、その他諸々の準備などに追われ、その上予算要求や今年度事業結果をまとめる時期に入って来ています。その忙しさは通常にオープンしている時以上のものがあります。本当にご苦労さま。

 そんな中で私は今、ある作家の調査を進めています。「立原位貫(たちはらいぬき/1951-2015)」。四日市ゆかり(64年の生涯の中で37年間、四日市に住んでいました)の木版画家であり、夢枕獏・曽野綾子・江國香織の本の表紙、挿絵、装丁を手掛けたり、いくつかの商品パッケージをデザインしたり、多才な活躍の結果を残しています。

歌川国貞(原画) 1814-15年
歌川国貞(原画) 1814-15年

立原位貫(復刻) 2010年
立原位貫(復刻) 2010年

 そしてそれらの基礎となり、彼の才能を世に知らしめたのが、江戸期の浮世絵の復刻です。版木・彫刻刀・バレン・絵具(顔料)・紙すべてにこだわり、それぞれの職人さんを訪ねては江戸期に近い、あるいは自分が納得できる作品が出来るまでのものを作ってもらい、本来、絵師・彫師・摺師の共同作業でやる工程を自分一人でやるための腕を磨き続け、素晴らしい成果を挙げました。

 没後の2019年には世界を代表する博物館の一つ大英博物館に、復刻9点、オリジナル3点が収蔵されるなど世界的評価にもつながりつつあります。今後予算的問題をクリア出来れば、展覧会へとつなげていくつもりです。
                           
 (吉田 俊英 よしだ としひで/四日市市立博物館)
 ※次回は1993年以降、本格化する立原のオリジナル作品について触れてみたいと思います。
[2022/11/13 22:00] | 未分類 | page top
【桑名市博】華ひらく近代工芸の美―板谷波山と香取秀真―
桑名市博物館 鈴木です。

今回は現在当館にて開催中の特別企画展「華ひらく近代工芸の美―板谷波山と香取秀真―」をご紹介させていただきます。

特別企画展「近代工芸の美」ポスター画像

日本の近代工芸界を代表する陶芸家・板谷波山(いたやはざん/1872~1963)と鋳金家・香取秀真(かとりほつま/1874~1954)は、自身の目指す理想を追い求めて作品の制作に励んだ当代一の美術工芸家です。また、この二人は東京美術学校(現在の東京藝術大学)出身であり、東京田端に住んだご近所さんでもあり、生涯にわたって親しい友人関係でもありました。のちに彼らは帝室技芸員や帝国美術院会員をともに務め、昭和28年(1953)に工芸家として初の文化勲章を二人同時に受章しています。
本展では、学生時代から晩年にいたるまでの代表的な作品の数々を展示しています。卓越した技術によって生み出された珠玉の名品をぜひご堪能ください。

【近代工芸】展示風景(波山作品)

【近代工芸】展示風景(秀真作品)

また、今回は彼ら二人と関わりのある桑名の人物についてもご紹介しています。

1人目は桑名の萬古焼の陶工・加賀月華(かが・げっか/1888~1937)です。月華は大正11年(1922)から本格的な作陶をはじめ、のちに波山に師事して近代の美術陶芸に果敢に挑戦していきました。
今回展示中の作品の中には波山の箱書きを伴うものがありますが、二人の作品を見比べてみると、月華は波山の技術や美意識の影響を強く受けていることがよく分かります。展示室で師弟作品の共演をぜひご覧頂きたいと思います。

2人目は多度の郷土史家・伊東富太郎(いとう・とみたろう/1876~1958)です。
桑名市に寄贈された伊東富太郎コレクションには秀真から届いた書簡が300通ほどあり、富太郎と秀真が書簡のやり取りを通して熱い金工談義を交わしていた様子が分かってきました。中には、伊勢型紙や戦時中の金属回収での梵鐘調査など、三重県の郷土史を知るうえで興味深い内容の書簡類も含まれています。富太郎は山芋や松茸などの地元の食べ物を送っていたようで、グルメな秀真からのお礼状なども届いており、親しい二人の間柄がうかがわれる書簡史料も出品しています。

特別機展覧会「華ひらく近代工芸の美」は11月27日(日)まで開催しています。ぜひご来館くださいませ。

最後になりましたが、秀真と富太郎がデザインを手掛け、桑名の鋳物師・中川祐次によって鋳造された擬宝珠が昭和21年(1946)に多度大社に奉納されました。社殿前に架かる橋の擬宝珠には秀真の銘が刻まれています。桑名へお越しの際にはぜひ多度大社へも足を運んでいただき、注目してみてください。

【近代工芸】多度大社擬宝珠

(鈴木亜季 すずき・あき/桑名市博物館)
[2022/11/06 22:01] | 未分類 | page top
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