第7回目を迎えたこのコラム。前号ではお休みを頂きましたが、これは決してネタにつまったからというわけでも、はたまた突如私が失踪したからというわけでもございません。ただ単純に、編集に先立って行われた学芸会議で担当のS藤学芸員から、「…今回はコラム、入らないんです」と、申し訳無さそうに伝えられたからなのです。従って休載の責任のすべては私ではなく編集担当のS藤学芸員にございますので、その旨お含みおき下さいますよう、くれぐれもよろしくお願いいたします。
さて、皆様は「学芸員」と聞いた時、どのような服装の人を想像されるでしょうか。おそらく一定のイメージをもっておられる方は少ないと思います。なぜなら、我々を含め、世の学芸員と呼ばれる方々の服装は決して一様ではなく、皆さん結構に好き勝手な格好をされているからです。 そんなこんなで、今回のコラムは「番外編」として、私の乏しい経験の中から、学芸員の服装を5つほどのパターンに分類・分析してみたいと思います。しかも今回はS藤学芸員からの「長過ぎます」という極めて率直な御意見により、「前編」として部分のみの掲載。後編につきましては、次号に何の前触れもなく唐突に掲載されることになってしまいますが、そのあたりについても私ではなく編集担当のS藤がすべての責任を負いますので、重々お含みおき下さいますよう、よろしくお願い致します。 ①ノーマル系 スーツではなくジャケットとシャツにチノパン、夏場でしたらポロシャツと時にはジーンズの方もおられます。以下に述べるフォーマル系の方々よりもややカジュアルな感じです。公立美術館にお勤めの学芸員の大半がこの系統に属しまして、当館の学芸員も基本的には全員このノーマル系と言えるでしょう。見た目は本当に普通としか言いようがなく、中には「僕はユニ◯ロの特売でいいんスよ!ガハハ!」と豪語する当館のK子学芸員のような兵(つはもの)もおられるのですが、皆様総じてオサレで、身に付けるものにひとつかふたつほどの小さなこだわりをお持ちの方が多いように思われます。私の師も元学芸員でして、大学の教授に就任された後もしばしば膝小僧が破れたジーンズを履いて来られることがありました。最近、私が懐かしい想い出としてそのことを師にお話したところ、「あれはダメージジーンズ!」という近年稀に見る強い叱責を受けてしまいました。人間、どこに沸点があるかわからないものですね。 ②フォーマル系 一言でいうとスーツにネクタイ姿の方です。公立美術館よりも歴史ある有名な市(私?)立美術館に多いように思われます。偉い方にお会いする機会が多いからなのでしょう。本コラムにも時折登場するE青文庫のMさんもこの系統に属する方。どこでどんな仕事をされる時でも、常に仕立ての良さそうなダークスーツに身を包まれ、冬場はそこに揃いのベストを加えられます。持っているスーツはゆめタ◯ン製の一着のみという私のような輩とは訳が違います。そのせいか、Mさんの私服姿は全く想像できませんでして、お子さんと散歩に行かれる時もあの姿なのではないか、とも思ってしまう程です。寝るときもきっとシルクの襟付きパジャマなのでしょう。往々にして非常に礼儀正しく、御配慮も細やかな方々なのですが、お酒の席となると結構はっちゃける場合がございます。 以前Mさんとお酒を(と?)カラオケをご一緒した際、マイクを通して若干のエコーとともにご発声された「林田歌え!」の一言は、今でも私のメモリアルワードのひとつとなっております。あの時は楽しゅうございました。 (次回「後編」に続きます) 初出:『熊本県立美術館だより View』154号 2015年9月 ***** 業界の服装は色々ですねー。今回は美術館界隈の話ですけど、歴史関係だと基本的に皆スーツが多いかと思います。 Tシャツにジーパンの人を見ると歴史屋界隈では「現代アートだな…」「あぁ間違いない」という会話が繰り広げられます。 |
第6回目を迎えるこのコラム、前回の内容に関して、とうとうクレームを頂きました。クレームの主、いわゆるクレーマーは、なんとかつて当館の総務課職員であらせられたT田様。内容としては、「“熊モン”は正しくは“くまモン”ではないか!この非県民めが!」とのこと。お便りは以下のように続きます。「いつも、くまの世話をしている身としては、これはどうしてもゆっとかないとと思いまして」(原文ママ)。T田様の現所属は県外の熊本県事務所だと思っていたのですが、どうやら動物関係の部署に勤務されているようです。前回あのように表記したのは決して誤字ではなく、匿名性のあるニュアンスをもたせたかったからなのですが。誤解を与えてしまった皆様にこの場を借りてお詫び申し上げます。
さて、今回のテーマは「薄葉紙」です。この道具、その名の通りペラペラとしたごく薄い紙です。紙の種類で言うと「雁皮紙」にあたるのだとか。だったら「ガンピー」などといったポケ○ン風のフレンドリーな愛称があってもいいじゃないか(みつを)とも思いますが、現場ではもっぱら「ウス!」という侠気あふれる通称で呼ばれております。ちなみにロール状に巻いてあるものは「マキウス!」と、裁断してあるものは「バラウス!」といいます。カタカナで書くと古代ローマ人の名前のようでもありますね。 我々が特別展や企画展を開催する場合、他館から作品をお借りすることがあります。お借りした作品は梱包した上で、専用のトラックで輸送するのですが、その間に傷が入ったりしたらもう大変。石抱き、水責め、ゴムパッチンなどの厳罰(嘘)が待っています。厳重かつ作品に害のない梱包をすることは、ゴムパッチンから我々の身(主に口周辺)を守る重要な使命といえるでしょう。もっとも、作業自体はN通さんとかYマトさんなどの美術部門を有する輸送業者の方が行いますので、我々は責任者として作品の状態に応じた指示を出す役割を担います。屈強な作業員さんやご所蔵者の顔色を窺いながら、おずおずと。 薄葉紙が活躍するのは、この梱包作業の時です。例えば額装された油彩画を梱包する場合、茶色のハトロン紙で全体を包んだ後、サイズにあわせて作成した段ボール製の箱に収めるというのがよくあるパターン。しかし、ハトロン紙はやや硬いので、特に状態のよくないモノの場合は額や絵に傷をつけてしまう恐れがあります。その時には、ハトロンの前に薄くしなやかな薄葉紙で包んでおけば、ゴムパッチンを回避できる可能性が高くなるというわけです。他にも、薄葉紙は大きく丸めればクッションより柔らかな緩衝材になりますし、裂いて細く折りたためば紐代わりにもなります。なんと使える道具なのでしょう! それだけに、借用・梱包の現場ではしばしば、こんなセリフが聞かれることがあります。 「…とりあえず、ウス、巻いときましょう」。 冒頭に若干のタメがあって、文節ごとにためらいがちな句点があるところがミソです。 サンの部分が外れそうな屏風を梱包する際にも 「…とりあえず、ウス、巻いときましょう」。 見るからに危険そうな工芸品を梱包する際にも 「…とりあえず、ウス、巻いときましょう」。 壊れやすいもの・壊れかけのものには 「…とりあえず、ウス、巻いときましょう」。 それってホントに効果的なのかしら、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。以前、とある所から小さな桐の箱に入ったガラス湿板写真をお借りしたことがありました。この写真、桐の箱が分解しかかっており、輸送中の振動で箱とガラスが干渉して割れる恐れがあるため、梱包方法に頭を悩ませておりましたら、N通さんから出ましたあのセリフ。 「…とりあえず、ウス、入れときましょう」。 いやいや今回はさすがに…とも思いましたが他に方法がありません。相手先の了承を得た上で、桐箱とガラス写真との隙間に折りたたんだウスを入れ、祈るような気持でトラックを送り出したのですが、帰って開梱してみれば、なんと全くの無傷。 ウス、凄くないですか? ところで、私はここ数年でひどい頭痛持ちになってしまいまして、2年に1度は鬼のような痛みが断続的にやってくる症状に悩まされております。数ヶ月前、ひとり収蔵庫で作業をしておりますと、やって来ました頭痛様。孤独に唸っておりますと、作業台には1枚のバラウスが。その刹那、壊れかけの脳裏に例のセリフがこだまします。「…とりあえず、ウス、巻いときましょう」。私はバラウスを手に取り、そっと頭に巻いてみたのです。効果ですか?あるわけないじゃないですか。 初出:『熊本県立美術館だより View』152号 2015年3月 ***** いやーこのセリフは業界中で言いまくってると思うんですけど、リンダさんレベルにまで言えるようにはなかなか修業が必要だと思います。キャリア10年くらいから使えるセリフじゃないかなあ、多分。 |
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